僕はいま、尾崎豊の「十七歳の地図」というレコードアルバム(CDではない)を手にしている。歌詞カードを見ると、実に多くの本音のような言葉がちりばめられている。
やりばのない気持ちを何かにぶつけて、自由になりたい。大人や学校は、自分たちをわかってくれないし、退屈な授業や心の通
わない大人たちの説教じゃ、将来も生き方も見えない。だから、学校や家には帰りたくない。
たとえ夢見たって、世間ばかりじゃなく、この街でさえ、優しくない。
必死にあがいて、空回りする情熱をかかえ、今日もあてなくさ迷い続ける……。
とまあ、こんなような叫びが、彼の詞からひしひしと伝わってくるわけです。
そして、そうしたやりばのない心の澱を、すくいあげるように、あるいは溶かすように、『I LOVE YOU』が、切々と歌いあげられている。これさえも、孤独な若者の悲痛な叫び声に聞こえる。
〈I love you 今だけは悲しい歌聞きたくないよ I love you 逃れ逃れ 辿り着いたこの部屋……〉
僕はこの曲を聴くと、あの時のことを思い出す。ちょうどその日、テレビで『北の国から 87 初恋』をやっていた。
主人公の淳が初恋をし、そして傷つき、やがて中学卒業と同時に、親を捨て、東京へ向けて旅立つ。出発の日、淳を乗せた長距離トラックを追えず、転ぶ父。涙する妹。
車中、十五年の月日を回想する淳が、初恋の相手からプレゼントされたヘッドホンステレオをつけると、そこからこの歌が流れてくる。
『I love you……』
これを見ていたカミさんが、横でわんわん泣き出すのである。
ドラマに泣かされたこともあるが、それだけではない。
自分たちの現状と、オーバーラップさせていたのである。
僕らはこれよりちょっと前、親や周囲の意に逆らうような形で、東京へ出てきた。
夢や希望は抱いていたものの、将来の保証は何もなかった。
カミさんには申し訳ないと思いつつも、現状ではどうすることもできない。
だから僕らは、ただただ前へ進むよりほかなかった。尾崎豊を携えて……。
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