◎そこにいつも歌があった(11)
『勝手にシンドバット』(サザンオールスターズ)


 最初この曲に出会ったとき、「なんちゅう歌だ!?」と思った。

 速射砲のように早口で、しかも何を言ってるかわからないし、意味もよくつかめない。
それに、タイトルだって明かに、『勝手にしやがれ』と『渚のシンドバット』を足して2で割るかして、遊んでいる。

 ベストテン番組に出ている彼らを見れば、みんなランニングかTシャツにジーパン、という体育会系の出で立ち。
第二弾が作れなくて悩んでいるのか、「ノイローゼ、ノイローゼ」と、画面をアップに叫んでいる。

 しかし僕は、そんなサザンが嫌いじゃなかった。むしろ、強い衝撃を受けたと言っていい。
大学の体育サークルからそのまま飛び出した、といった風体で、強烈なサンバのリズムに乗せ、あの独特のボーカルでノリまくる。

 おかげで聴いているこっちまで、腰をフリフリしたくなる。
友人たちとドライブに出かけた時なんか、カーステレオで『勝手にシンドバット』がかかった瞬間、みんなが一斉に体を動かすものだから、車体が大きく揺れていたもの。後続の車は、当然、ビックリしてましたけど……。

 本当かどうか知らないが、近所の文具店のオババまでが、「あたしの知人の知人が、サザンなんとかという名でデビューしたで、頼むよ」と言っていたくらいである。

 本当に当時のロックグループとしては、異例なほど大衆的だった。
 本来なら、“21世紀に残したい曲”というのであれば、『いとしのエリー』をあげるのが順当だが、以上のような理由と、思い入れによって、こちらを推挙した次第です。

 むしろ、この曲はサザンの原点でもあるし、いまポピュラー音楽が忘れかけている、何ほどかの息吹を感じられるのも、やはり見逃せない。
それに、こうした系統の曲があればこそ、あの名曲『いとしのエリー』も生きてくるというもの。

 翻って、今のサザンに注文をつけるとしたら、確かに曲作りのうまさと人気の安定度は、昔と比ぶべくもないが、初期の作品に満ちていた「汗と息吹」は、どこへ行ったのだろう。