◎そこにいつも歌があった(12)
『さらば涙と言おう』(森田健作)


 たとえ時代錯誤と言われようと、僕は青春ドラマの復活を願う。

 熱血教師と落ちこぼれ生徒がいて、涙と汗と青春の勲章がある……みたいなのがいいかどうかは別 として、とにかくこの種のストレートな表現の青春ドラマを望む。

 この連載の第一回で、『ふれあい』をとりあげたけど、今日はそれとはちょっと違う趣旨でつっこみを入れたい。

 僕が中学生だった頃は、本当にテレビ番組に恵まれていたような気がする。

 とくに男の子はどう生きたらいいか、というような夢やテーマをいっぱい与えてくれた。

 「太陽にほえろ!」で刑事に憧れることができたし、「8時だヨ!全員集合」では、日頃の憂さを晴らせた。
カトちゃんが“ちょっとだけヨ”とやれば、大人の世界のお遊びを垣間見れたし、学校でも共通 の話題がもてた。

 「仮面ライダー」や「マジンガーZ」は、子供だけでなく中高生も十分楽しめたので、勉強やクラブ活動の息抜きにもなった。

 また、「時間ですよ」や「寺内貫太郎一家」などのホームドラマでは、家族や仲間の大切さを教えられた。

 そして、僕が何より真剣に見たのは、「おれは男だ!」「飛び出せ!青春」といった青春ドラマである。なかでも「おれは男だ!」は、かなり影響を受けたし頼りにもしていた。

 中学に入ってすぐにこれを見始め、毎週毎週、主人公(森田健作)の一挙手一投足に注目し、「そうかそうか、そうやって生きるのだな」と、大いに共鳴していたものだ。

 今からすれば、ノーテンキなほど単純に思えるが、これはこれでけっこう思春期の悩みを吹き飛ばしてくれたのだ。
 真新しい学生服、ちょっと硬めの詰襟カラー、新しい人間関係、慣れない中学生活……、こういった環境における、すべての悩みが溶けていくような気がした。

 「吉川くん! だいたい君はだなぁ」と森田健作が叫び、〈青春の勲章はくじけない心だと〜〉と主題歌が流れると、不思議に僕の迷いは、スーっと消えていった……。

 昔の青春ドラマを作れとは言わないが、せめて現代の少年たちに、道しるべとなるような、力強い青春ドラマがあってもいいと思う。