◎そこにいつも歌があった(16)
『青春の影』(チューリップ)


 この歌を聴くと、いつも思うことがある。そういえばよく、あの人の家へ続く道で、ひとりこの歌を歌ったっけナー……と。

 若い時分にありがちな、ストイックなまでの純愛(?)というか、付き合いかたにこだわった僕は、いつも彼女とケンカをした。

 現実をあまり見据えないで、夢のようなことばかりを言っていた僕と、あくまでも現実的にモノをとらえる彼女の意見が、いつもぶつかった。
けれど、それでもなんとか、互いに明日を信じようとしてガンバった。

 が、結局二人は、求めるものが段々違ってきて、別れてしまった。
僕はそのとき、彼女の家へ続く細い道で、ひとりじっと涙をこらえ、何時間も佇んでいた。

〈君の心へ続く長い一本道は/いつも僕を勇気づけた/とてもとてもけわしく細い道だったけど/今君を迎えにゆこう/自分の大きな夢をおうことが/今までの僕の仕事だったけど/君を幸せにするそれこそが/これからの僕の生きるしるし〉

 季節はたしか春だった。菜の花が脇に咲く小道に、やわらかい風が吹きわたり、離れてゆく痛みをほんのわずか忘れさせてくれる、そんな情景のなかに僕はいた。

 大きな仕事をやりとげて、カッコよく彼女を迎えにゆきたかったのに、それができないまま、彼女は去って行った。

 僕としては、「こんないい男をふるなんて、きっと後悔するぜ」などと性懲りもなく思っていたわけで、しかし彼女にすれば、「なに言ってるんだか。口ばっかりで先が見えない男はもういいわ」と見切りをつけた、というのがきっと真実に近いのだろう。

 それでも一縷の望みとして、いま仮に彼女に逢ったとしたら、「あの時わたしが身を引かなければ、あなたがダメになったわ」などと言ってくれるのではないかと、甘い期待をする僕は、やはり進歩がないのでしょうか。

 で、そんな僕を見て、きっと彼女はこう言うでしょう。
「あいかわらずね……」と。

 本来なら、こういうことは小説か何かでないと言えないけど、もう過去のことなので、素直に思い出してみた次第です。