いま改めてこの『柔』を聞くと、とにかく元気がでる。景気が悪いとか先行き不安だとかリストラだとか言って、うじうじしているような現代に、まさにカツを入れる一曲だ。
だってスカッとして、潔いじゃないですか。
〈勝つと思うな 思えば負けよ 負けてもともと……〉
懐かしの歌番組かなんかで、ひばりさんが柔道着に袴姿でさっそうと歌う様は、だれが見たって格好いいし、ほれぼれとする。
昭和39年に日本テレビ系で放映された「柔」の主題歌だったこの歌は、翌昭和40年のレーコード大賞に輝いている。当時は、大衆娯楽の重心が、映画からテレビへ移行するエポックにあたっていた。
日本中に柔道ブームを呼んだ「柔」をはじめ、放送時に銭湯をカラにするほど人気を集めた「日曜劇場・愛と死をみつめて」、ホームドラマの草分けともいえる「ただいま11人」や「七人の孫」が、茶の間の話題になったりした。
僕も、子供ながらそうしたテレビ番組を好んで見たように思うし、また「ザ・ガードマン」や「愛染かつら」のような大人のドラマも嫌いじゃなかった。
こうした傾向は、たぶん母の影響と考えられるが、その母はとりわけ美空ひばりの大ファンだった。
とにかく“ひばり命”のような熱狂ぶりで、周囲にいる母の友人たちも洗脳して、ことあるごとに「やはり日本一歌のうまいのはひばりよ」と、みんなして騒いでいた。
僕の記憶が確かなら、あるときなどは、ひばりよろしく自宅で紋付き袴になり、『柔』を歌う母の姿があった。
よくやるよね。
そう言えばあの当時、世間における歌手の評価というか歌い手としての真価は、「歌のうまさ」であり、スケールの大きさであった。
当の母からすれば、一にも二にも美空ひばり、その次くらいに島倉千代子、橋幸夫、藤山一郎あたりが名歌手としてあげられていた。
まあこの序列はともかく、歌手は本来、このように「歌のうまさ」やスケールの大小で評価され、支持されるのがまっとうなあり方に思うが、皆さんはどうお考えでしょう。
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