雨の日にその店へ行くと、きまってこの曲が流れていた。
その店は、ぼくがまだ東京・世田谷に住んでいた頃、雨降りになるとよく利用した、酒屋兼コンビニだった。
どちらかといえば、地味で平凡なつくりの日配品ショップなのだが、なぜかいつもヒット曲が流れていた。
世田谷というところは、何とも不思議な場所で、「住んでみたい街」というイメージとは裏腹に、意外と買い物は不便であることが多い。
しかも、駅やバス停からけっこう歩く、という人の割合も多いのだ。
だから、雨降りになると、途端にフットワークが悪くなり、近くの雑貨屋や八百屋に頼らざるをえなくなる。
ウチも、そんな例のひとつだった。
雨の日は、とにかく最寄りのデイリーショップ。
そして、店内で流れているのは、森高千里の『雨』。
この組み合わせが、何とも切なくまた珍妙な思い出を誘う。
住んでいたアパートは、軽量鉄骨の2階建で、ウチは二階の西半分。
少し体重を乗せ歩くと、木造のようにミシミシガシガシ音が響く。
築年数は浅いほうなのに、これである。
折しも、長男がヨチヨチ歩きを始めたころで、ドスンとかバタンとか音をたてて転ぶことが多かった。
そのたびに、こちらは冷や冷やする。アパート全体に、地鳴りのような振動が響き渡るからだ。
そのうち、床下からドカン、ゴトンと突き上げるような振動が伝わってくるようになった
。
後でわかったことだが、「うるさいぞ」といわんばかりに階下の住人が、棒もしくは拳で天井を突き上げる音だったのである。
ご立腹はわかるけど、一番の原因はアパート自体のつくりにあるのだ。直接言葉で苦情を言うか、家主に相談するかして解決すればいいものを、本当に困った人だと思った。
そんなこともあり、雨降りになると、ぼくもカミさんも憂鬱になり、自然とデイリーへ足を向けることになったのだ。
ちなみにぼくは、デビュー当時から森高千里の大ファンで、それを知るカミさんは「あたしに似てる」と勝手次第に言うけど、ぼくはずっとノーコメントを通
している。
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