◎そこにいつも歌があった(25)
『銃爪』(世良公則&ツイスト)


 とにかくカッコいいと思った。その圧倒的なボーカルの力技といい、セクシーなまでのステージアクションといい、歌のダイナミズムといい、すべてがカッコよかった。

 世良公則率いるツイストは、ヤマハ〈ポプコン〉グランプリから突如飛び出し、「あんたに〜」のハンマーパンチで、いきなり日本のロック界に名乗りをあげた。
その後、あれよあれよと人気が出て、ついにはポップス音楽の頂点にたってしまった。

 それは急速な上昇だった。
当時、ライバルと目されたサザンオールスターズが、マイペースの長距離ランナーなら、ツイストは弾丸短距離ランナーだった。

 とにかく出す曲出す曲みんな1位、という盛況ぶりで、一時は向かうところ敵なしといった観があった。
彼らの音楽性を図形にたとえるなら、サザンがフリーハンドと曲線であるのに対し、ツイストは研ぎ澄まされた直線と直線の組み合わせといえる。

 もっと言えば、前者がファジーなゆらぎ、後者がサーチライトの光芒のようなシャープさ、とも表現できるだろう。

 いずれにしても、ツイストの人気を不動のものにしたのが、この『銃爪』である。
スリムなジーンズにTシャツというスタイルで、われらが世良公則は、ステージせましと吠えまくり、シャウトするのだった。

〈Tonight Tonight……今夜こそ オマエを おとしてみせる〉

 彼の歌声が日本中に響いた夏は、異常に熱い夏だった。
熱帯夜が何日も続き、寝苦しさから涼を求め、真夏の夜の街を徘徊する人たちが、あちこちにあふれた。

 そんな折々にぼくは、なぜか街の中心街のデパートで、ガートマンとして夜警の勤務につくことが多かった。
発情しそうなくらい熱い夜の風に吹かれ、若者たちが街に繰りだすのを、ただじっと警備室から息をのんで傍観するのだ。
またそういう時に限って、世良さんの歌声がラジオから聞こえてきたりする。

〈今夜こそ オマエを おとしてみせる〉

 若い身空のぼくとしては、エネルギーのやり場がなく、本当に体に悪いと思った。