ガロといえば、じつにいろんな想いが駆けめぐる。
『学生街の喫茶店』は、中学の部活動が終って教室へ入ると、いつも校内放送のスピーカーから流れていた。
汗まみれ泥まみれのユニフォームをバッグにつめこみ、給食の残りのパンをかじりながら、よく聞いたものだ。セピア色の西日が教室の奥まで届き、外の秋景色の影を、映写
フィルムのように映していた。
歌詞に出てくるボブ・ディランてどんな人だろうとか、街路樹が美しい学生街の喫茶店はどこにあるのかナー、などと思索に耽っていると推し量
ったように、「校内に残っている人はすぐ下校しましょう」と、味気ない校内放送がこだましてくる。
まったくねえ…。 ほかにもガロといえば、ふしぎと部活動を思い出す。
夏休みの練習が終り、ガランとした校舎に入ると、教室から『君の誕生日』が流れてくる。
制服姿の女子生徒が、家から卓上プレイヤーを持ってきてかけていたのだ。
なんだか「ある愛の詩」のテーマに似て、いい曲だなと思ったぼくは、さっそくレコードを買った。それが初めて買ったレコードだった。
でもよく考えてみたら、音を出すものがないので、その女子生徒のように、卓上プレイヤーで間に合わすことにした。
やがて秋になり、ぼくはその女の子と偶然一緒に帰る機会を得た。
その日の空には、夕映えのなかにきれいな星が出ていた。
彼女はガロの『ロマンス』が好きだと言った。
〈き〜み忘れないでい〜て…〉
と、二人して『ロマンス』を歌いながら歩いた。
どこまでもどこまでも続く小径のように感じられた。
でもぼくは知らなかった。
その彼女の想いと、彼女のはかない運命を。
まさかそんなことがあるのだろうかと、神様を恨みたくなるほど悲しい出来事が、それからわずか一カ月後に起きた。
原因不明の病で彼女は逝ってしまったのだ。
しばしぼくは茫然自失となり、その悲しみからなかなか立ち直れなかった。
彼女が残したたった一頁の日記には、ぼくへの想いが綴られていた。
ぼくは猛烈に後悔し、自分の優柔不断を恥じた。
そして「一期一会」の大切さを、この時から身をもって知るようになったのである。
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