◎そこにいつも歌があった(最終回)   
『高校三年生』(舟木一夫)


 ある日、本欄を愛読してくださっている方から、一本の電話を頂戴した。お声とお話の調子から察するところ、ぼくより一世代くらい上の女性と思われる。

「いつもこのコーナーを見るたびに、期待するんですよ。『高校三年生』はまだかなって。
舟木さんは、私にとって永遠のアイドルです。あの方に出会えたことが幸福でした……」

 その女性は、こんなふうに切々と訴えた。最初ぼくは、内容がよくつかめず、舟木一夫の知人かあるいは後援会の人かな、と思った。
が、よくよく聞けば、デビュー以来ずっと“舟木さん命”でやってきたファンとのこと。

 彼女の青春は、まぎれもなく舟木一夫であり、『高校三年生』だったのである。
だからぜひ、本欄でも取り上げてほしいと、このようなリクエストに至ったのだそうだ。

 とはいえぼくは、舟木一夫、橋幸夫、西郷輝彦といった“御三家”の世代ではなしに、強いていえば郷ひろみ、西城秀樹、野口五郎の新御三家の世代でして……と正直に戸惑いの気持ちを伝えた。

 それでもぼくは気になっていたので、周囲にいる“御三家世代”の人たちにいろいろ聞いてみた。
それを単語にし要約すると、熱狂、絶叫、興奮という言葉であった。
とりわけ舟木ファンは出色していて、いまでも熱狂的ファンは多いという。

 そういえば先ごろも、東京都内の劇場で舟木一夫が座長公演をし大騒ぎになったと、ワイドショーかなにかでやっていました。
おばさんたちに囲まれ、若々しい格好で街を練り歩く舟木さんの姿が印象的でした。

〈赤い夕陽が 校舎をそめて ニレの木陰に弾む声 ああ 高校三年生……〉

 この歌を口ずさむとき、一瞬にしてみんなあの頃にタイムスリップし、誰もかれも高校三年生の時分に戻れるにちがいない。

 たとえどんなに遠く過ぎ去っても、離れ離れになろうとも、クラス仲間はいつまでも…という感じで。
けど、本当に羨ましいと思う。
いくらぼくらの世代の音楽が素敵だといっても、これほどの共時性や連帯感まではない。

 いま若い人たちの間で、『高校三年生』が密かなブームだという。
卒業式の二次会やカラオケで、けっこうノリノリで歌うんだそうだ。
やはり本当の名曲は、時代を越え世代を越え、歌い継がれるということなのだろう。