◎そこにいつも歌があった(6)
『卒業写真』(荒井由実)


 人はだんだん年を得るごとに、ピュアな部分をなくしていく。

 はるか遠く、理想とか夢をかかげて、熱く胸をふるわせた人であっても、十年たち二十年たち、世間の荒波にもまれるうち、しだいにただの人になる。

 ましてや、大した目標や望みもなく、のほほんと青春を過ごしたような人は、流されるままに流される。
 で、僕はどうだったかというと、あまり褒められたものではなかった 。
高校を卒業する間際になっても、まだ進路が定まらず、ふらふらしていたのだから。担任の先生も、 「公務員だの進学だの就職だのって、おみゃーさんは、いったい何がやりたいんだね」と、ほとほと呆れていました。
困ったもんです。

 でも、自分なりに、僕が僕であるためのスタイルを、必死に模索していたことだけはたしかです。
たとえそれが、周囲には気まぐれに見えても……。

 そんなとき、親友のひとりが、「ユーミンの『卒業写真』ってジンとくるよな。
なんか俺たちのこを言われてるみたいで」と言った。

 僕が、「そうだよな、通学路には柳があって、それが電車から見えるもんな」と言うと、「違うよ、そうじゃなくて、あの歌のように卒業してからも、大切なものを忘れないでいられるかってことだよ」と彼は言った。

〈あの頃の生き方をあなたは忘れないで あなたは私の青春そのもの〉

〈人ごみに流されて変わってゆく私を あなたはときどき遠くでしかって〉

 遠くでしかって、と言われてもそんな僕は立派なもんじゃないけどなあ、と言うと、彼は「まあ勝手に言ってろ」と笑った。

 彼は、今でいうキムタクに似たルックスだったので、大変モテた。
だからきっと、この曲の歌詞のような心情を、女の子から告白されたのだろう。
僕も彼のように、告白してくれる女の子を待ったが、ムダなあがきだった。

 それはそうと、あの頃を忘れないで、みんな元気にやってますか?