ブーイングと野次の嵐のなか、二人は、規定の2曲を歌いきった。
『バカやろう、いいかげんに引っ込め!』
まだ、野次は止まない。
もちろん拍手も、ない。ぼくらが何をしたというのだ。
拍手なんか期待しないけど、せめて黙って聞け、と言いたい。
舞台を下りる際、君田は、クソっ、という声を出して、マイクスタンドに、ひとつ蹴りを入れた。
マイクスタンドは、音をたてて倒れた。
それでも、講堂の中は騒がしい。
ぼくらが舞台のソデに下がると、社長の三崎は、機嫌をとるように、擦り寄ってきた。
「やあ、お疲れお疲れ」
「いったい、これは何ですか?」
「まあ、そんなに熱くなるなって。次のルナのステージを見れば、納得するから…」
納得なんかするものか、と思った。
ぼくも君田も、ズタズタに傷ついている。
なのにこのオヤジときたら、へらへら笑うばかり……。
舞台の反対側から、髪をアップにしたルナが登場するや、場内の興奮は頂点に達した。
ルナは、純白のミンクのコートに身を包み、なぜか裸足であった。
嫌な予感がする。
『いよぉ、待ってました、ルナちゃん』
『ルナぁ、いのちー!』
野太い野卑な声が、高い天井に響きわたる。
およそ学園祭らしからぬ、不健全な空気だ。
いかがわしいBGMこそなかったが、ルナは四肢を妖艶にくねらせ、ステージに舞った。
やがて、クルリと体を回転させると、ヒラリとコートの前を開けてみせた。
何もつけていない。華奢な肢体に、盛りあがった乳房がまぶしい。
ヘアも遠巻きながら、陰影のように見える。予感は的中した。
『いいぞぉぉぉ、ヒューヒュー』
などといった、品性のないダミ声が、そこかしこから束になって聞こえてくる。
さらに、一回転すると、まとっていたものをスルリと拭い落とした。
『ウォォォォォォー』
という野獣の咆哮のような奇声が、さらに講堂中を包んだ。
一糸まとわぬ姿で、ルナは、観客を前にして立っている。
あろうことか、片足を高くあげたりもした 。
場内はもう、はちきれんばかりの、興奮がみなぎっていた。
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