回想11


 ここはストリップ小屋か、と思った。
いまここに集まっている連中は、およそ最高学府に学ぶ者の片鱗など、どこにもない。

 ただもう、歓楽街のスケベオヤジと何ら変わりはない。

 舞台のソデからその様子を窺っていた僕と君田は、声を失って、唖然とするばかりであった。
君田などは、ステージから背を向けて、頭を抱えていた。こんな学園祭の演し物は、はじめてである。

「帰るっ」

 とひとこと言うと、君田は憮然とした表情で、舞台裏の非常口を出ていった。
僕は、あわてて後を追った。

「おい、ちょっと待てよ」

「待てないね、やってられないよ」

「わかるけど、ギター置きっ放しで、帰るのか」

「あとは淳成、悪いけど頼むわ」

 そんなこと頼まれても困る、と言う間もなく、君田はいなくなった。
よほど、腹にすえかねたのだろう。僕だって同じだ。

 とくに彼は、自分たちの音楽を一途に求めている。
それが、こんな形で侮られたのだから、当然である。

 講堂のステージでは、まだルナの裸の舞が続いていた。
野卑な奇声は、一段とまして、建物の外壁まで振るわせる勢いだった。

「どうだ星名、楽しいだろう。みろ、盛り上がってるぞ」

「その様ですね。…ぼくらはこれで失礼します」

「おい、勝手に帰るなよ」

「これがあなたの言う、音楽の仕事ですか…」

 社長の三崎は、キョトンとしていた。
全然わかっていない。

 僕は両手にギターを抱え、木立ちの坂を、とぼとぼと下っていった。
空はどんより曇り、視界の先が何となく冷たく凝固していた。
時々、浮かれた感じの学生グループが、ふらふら通りすぎていった。

(このままじゃ、ぼくらはダメになる)

 そんな考えが時折浮かんでは消え、潜在する不安を掻きたてた。

 帰宅すると、アライ文具店のオババから手紙が届いていた。
七瀬ゆかりにお金を借りた件で、心配している様子だった。