回想12


 文面から察するところ、ゆかりが、オババに話したのだろう。
こちらの危うい夢物語の内実を、どこか見透かしているようだった。

 十万円という大金を、女に借りてまでやる仕事なんて、あたしゃ聞いたことないよ。
彼女がいいって言っても、終わったらちゃんと返すんだよ…、などと相変わらずの説教節が便箋に踊っていた。

(なこと、わかっているさ)

 アパートの近くの公衆電話から、君田弘に連絡したがまだ帰っていない。
バックバンドの手配の有無と、ライブの段取りを早急に確認しなければならない。

 自室に戻り、どうしたものかと考えているうち、いつの間にか眠り込んでしまった。

 結局、君田は翌朝につかまった。恋人の浅丘知美のところにいたという。

 どうせなら、一緒に住めばいいのにと思うが、そこは交誼のけじめとやらで、今だに踏み切れずにいる。
そういうところだけ、妙に律義なんだから…。

 午後のスタジオ練習のとき、君田は、バックバンドの三人を連れてやってきた。

「うーす」

 そう言って三人は、続けざまにペコンペコンと頭を下げた。

「今度、バックを務めてくれるドラムの沖田さんに、ベースの長山さん、それにギターの三井さん」

「あ、星名です、星名淳成です」

 君田の紹介に促され、僕は軽く目礼した。

 長山と紹介された男は、掛け値なしの馬面で、肩まで伸びる長髪をうるさそうに払っていた。

 ドラムの沖田は、ほぼ三等身的肥満体型で、持参したスティックを、たえず腿部にトコトコ当てていた。
いかにも、タイコ屋らしい。

 三井は、ケースから大事そうにギターを取り出すと、ネックのあたりをしきりに布で拭いていた。
細身のわりに、汗かきとみえる。

 いずれも、落ち着きのない風体であるのは間違いない。

「じゃあ、さっそくリハを始めますから」

「うーす」

 君田の促しにも、マイペースで慌てることのない三人であった。
ドラムが位置につくと、演奏が始まった。