いよいよ、『ルイーダ』でのライブ前日というとき、バックの三人は、練習スタジオに姿を現わさなかった。
僕と君田弘は、二人だけの最終リハを終えると、そのまま電車に乗って、井の頭公園に向かった。
ぼくらは、ボートが浮かぶ池の縁をゆっくり歩いた。
「うーん、どうしたものかなあ」
野外ステージの前で、君田は、深い溜め息をついた。
「なんとかなるよ」
言っているそばから、不安がこみあげた。
満足な練習もできないまま、ここに至っているのだ。
自信など、あるはずもない。
君田の話では、バックの三人は、レコーディングが入っているため、来れなかったらしい。
事前に、練習に出るように言ったが、そちらを優先したのだろう、ということだ。
「そういえばさ、ここは『俺たちの旅』の舞台になったところだよな」
君田は、白い壁に囲まれたステージに向かって言った。
「そうだったな」
言いながらぼくは、中村雅俊扮するコースケやグズロクが、この場所で跳ねまわるシーンを、心で思い描いた。
「あんなふうに自由に生きるのは、むつかしいのかなあ」
「どうして、そんなこと言うんだ」
君田にしては、いつになく神妙な言葉だったので驚いた。
「だってさ、考えてもみろよ。世間には俺たちのような、夢を実現させたいやつはいっぱいいるのに、ほとんどが叶わない」
「だからと言って、自分たちがそうだとは限らないじゃないか」
「まあな。けど、コースケたちだって、ドラマだというのに、結局現実には勝てなかった…」
「そんな寂しいこというなよ。これからジャンプしようというときに、何を言ってるんだ」
「そうだな」
そうは言ったものの、君田の気持ちは痛いほどわかった。
このドラマが、幸せな結末になるかどうかは、だれにもわからない。
「とにかく、明日がんばろうぜ」
そう言って君田は、立ち上がった。
梢が西風にゆれて、シリシリと擦れあうような音をたてていた。
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