「なんだなんだ、この演奏は…」
僕は、はげしく狼狽した。
スローバラードだというのに、ドッカドッカ、バリバリバリ、グッガグッガ、ドドドドドー……とビートが襲ってくる。
完璧に、こちらの歌を破壊している。バックバンドのやつらが、ヤケのやんぱちで、やりたい放題にかましているのだ。
君田は、ステージにひざまずき、うつむいたまま、マイクを握りしめている。
泣いているようだった。
その時だった。客席から、一人の男がヌッと現れ、こちらにつかつかと歩み寄ってきた。
「ウォォォォー!」
野太い狼のような声とともに、パイプ椅子が飛んできた。
「ガシャッ」
鈍い音がした。
ステージに据えられた照明に直撃し、細かいガラスの破片が、あたりに飛び散る。
はずみで、僕のマイクスタンドが倒れた。
場内から「キャー」という悲鳴が起こり、演奏は中断した。
「やめちまえ! このボツ野郎!……」
男はそれだけ言うと、目にもとまらぬ早さで、その場を立ち去った。
なんなんだ、あいつは。
僕たちに、いったい何の恨みがあるというのだ。
派手な色の髪をおっ立てていたことから、前のバンドの取り巻きにちがいない。
『皆様、落ち着いて下さい。心配はいりません。…本日のライブは、これにて終了とさせて頂きます』
緊急放送が流れ、店内がパッと明るくなった。
ああ、なんということだ。本当に悪夢だ。せっかくのステージが、これでは台無しではないか。
それどころか、当分の間、僕らは他のライブにも出られないだろう。
先日の学園祭から、まったくついていない。
舞台のそでから、社長の三崎が、真っ赤な顔をして飛び出してきた。
「バカヤロー、なにやってるんだ」
「こっちこそ聞きたいですよ」
僕は、興奮して喧嘩腰になった。
君田は、依然、床に顔を伏せたまま動かない。
バックバンドの連中は、早々に退散をはじめた。
「君田、終わったよ」
「すまない、すまない…」
声が震え、言葉にならない。
顔を上げると、ぐっしょり頬が濡れていた。
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