ガランとした客席には、七瀬ゆかりのほか、もうひとり、女性の姿があった。
浅丘知美であった。
七瀬ゆかりは、客席の一番うしろで、ぼうぜんと立ちつくしている。
そのすぐ横で、浅丘知美が着座したまま、泣いている。
そこだけ時間が止まり、空気がシンと張っているようだった。
「とにかく、この始末はちゃんとつけてもらうからな」
社長の三崎は、そう言うなり背を向けて出ていってしまった。
七瀬ゆかりが、心配そうにその様子をじっと見守っていた。
相変わらず、知美は、うつむいたままである。
君田は、ふらふらっと立ち上がると、浅丘知美のいる場所へ、力なく歩いていった。
「帰ろう」
君田は、彼女を抱きおこし、二人して奥の扉から出ていった……。
ふと我に返ると、ゆかりのやわらかい笑みが、すぐそばにある。
「お疲れさま」
少し瞳が潤んでいた。彼女は、しかたないわ、というように、首をコクンと傾げた。
「こんな筈じゃなかったんだけど」
「わかってるわ」
「……このあと、時間ある?」
「ええ、大丈夫よ」
ほどなくふたりは、新宿の雑踏のなかを歩いていた。
社長の三崎が、店の人と話をつけていたので、ステージの後始末もそこそこに、『ルイーダ』を出ることができた。
「借りた十万円は必ず返すから」
「そんなのいつだっていいわ。それより、これからどうするの?」
「まだわからない」
声がかすれ、喉が痛かった。
「知美さんと君田さん、大丈夫かしら?」
「うーん、どうかな」
「知美さん、かなりショックを受けてたみたい。わたしの言葉も、耳に入ってなかったもの」
「きみのほうは、どうなの?」
「正直言って、悔しかったわ。バックの人たち、まるでやる気がないように見えたし、変な人が突然乱入してきたり…。皆して、わざと淳成くんたちを邪魔してるみたいで、とても腹がたったわ」
ゆかりは、今までこらえていたものを、一気に吐き出した。
僕は、それを聞きながら、じっと空を見上げていた。
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