回想20


 僕はお茶をひとくちすすり、今の気持ちを、ありていに話した。

「『ルイーダ』でのライブ、あんなことになっただろ。 三崎社長にも迷惑かけたし、今後のこともあるからさ、早めに事務所に顔出さなくちゃ、と思ってるんだ」

「悪いけど、おれは行かない」

「どうして?」

 君田の意外な言葉に、ちょっと調子が狂った。
これでは、あとの話ができないではないか。

 そう思っていたら、君田がおもむろに口を開いた。

「実はな……」

 少し間があく。

「インドに行こうと思ってる」

「インド!?」

 一瞬、君田が何を言っているのか、わからなかった。
僕は、もう一度、すっとんきょうな声で聞き返した。

「インドって、何だよそれ。どういうことだよ」

「どうもこうもない。インドはインドだよ」

「禅問答やってる場合じゃないよ。ライブの反省点や、音楽バンドとしての将来を考えようという時に、どうして突然そういう話になるんだよ」

「突然じゃないさ。前から考えていたことなんだ」

 僕は、彼の太いゲジ眉をじっとみつめた。友人であり、バンド仲間であったはずの君田弘が、ふいに遠い存在に感じられた。

「けど、インドへ行ってどうするんだよ?」

「インドには、インド占星術をはじめ、神秘に包まれたチベット医学や、インド伝承医学、それにヴェーダと呼ばれる偉大なる聖典も存在しているんだ。おれは、そういう真理に触れてこようと思ってる」

「ちょっと待ってくれ。何のことだかよくわからないよ」

「だろうな。淳成には、ちょっとむつかしいかもしれないな。まいずれ、ゆっくり話して聞かせるよ」

 危うい感はあるが、君田の熱弁に、こちらも段々とハマってゆく。

「で、頼るあてはあるのか」

「いいや、ない。けど、インドには、〈神の化身〉として崇拝される人物が何人かいる。それをまず、訪ねてみようと思ってる」

 聞けば聞くほど、ますますわからなくなってきた。