僕はお茶をひとくちすすり、今の気持ちを、ありていに話した。
「『ルイーダ』でのライブ、あんなことになっただろ。 三崎社長にも迷惑かけたし、今後のこともあるからさ、早めに事務所に顔出さなくちゃ、と思ってるんだ」
「悪いけど、おれは行かない」
「どうして?」
君田の意外な言葉に、ちょっと調子が狂った。
これでは、あとの話ができないではないか。
そう思っていたら、君田がおもむろに口を開いた。
「実はな……」
少し間があく。
「インドに行こうと思ってる」
「インド!?」
一瞬、君田が何を言っているのか、わからなかった。
僕は、もう一度、すっとんきょうな声で聞き返した。
「インドって、何だよそれ。どういうことだよ」
「どうもこうもない。インドはインドだよ」
「禅問答やってる場合じゃないよ。ライブの反省点や、音楽バンドとしての将来を考えようという時に、どうして突然そういう話になるんだよ」
「突然じゃないさ。前から考えていたことなんだ」
僕は、彼の太いゲジ眉をじっとみつめた。友人であり、バンド仲間であったはずの君田弘が、ふいに遠い存在に感じられた。
「けど、インドへ行ってどうするんだよ?」
「インドには、インド占星術をはじめ、神秘に包まれたチベット医学や、インド伝承医学、それにヴェーダと呼ばれる偉大なる聖典も存在しているんだ。おれは、そういう真理に触れてこようと思ってる」
「ちょっと待ってくれ。何のことだかよくわからないよ」
「だろうな。淳成には、ちょっとむつかしいかもしれないな。まいずれ、ゆっくり話して聞かせるよ」
危うい感はあるが、君田の熱弁に、こちらも段々とハマってゆく。
「で、頼るあてはあるのか」
「いいや、ない。けど、インドには、〈神の化身〉として崇拝される人物が何人かいる。それをまず、訪ねてみようと思ってる」
聞けば聞くほど、ますますわからなくなってきた。
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