回想21


 それにしても君田は、いつからインドにハマったのだろうか。

 今まで、そんな素振りはぜんぜん見せなかったのに……。

 僕の知らないところで、彼の関心が、インドに向いていたなんて、ちょっとショックである。

 が、ここはとにかく、話を戻さなくてはいけない。

「じゃあ、歌はどうするんだ。〈キャンドル〉というバンドは、このまま解散してもいいのか」

 僕の中では、これが切り札だった。彼は、少し間をおき、こう切りかえした。

「おれたち、才能ないもん。そう思わないか」

 その言葉が、ナイフのように心をつきさした。

「何を言うんだ。今までずっと、自分たちを信じてやってきたじゃないか。じゃあ聞くけど、大金はたいてまでやったあのライブは、いったい何だったんだ?」

「おまえが借りたお金だったら、心配しなくていい。ちゃんとおれも半分持つから」

「そんなこと言ってるんじゃない」

 だんだん、語調がきびしくなる。

「なあ、君田、どうしちゃったんだ。変だよ。おまえらしくないよ」

「おれはいたって冷静だよ。そのうえで言う。もう終りにしよう…」

 大切な何かが、いま音をたてて崩れようとしていた。

 テーブル代わりのこたつを挟んで、二人は、しばらく無言でみつめあっていた。

 冷めたお茶を口に運び、僕は言うべきことを探した。

「知美くんのことはどうするんだ。日本においておくのか」

「そうだなあ。どうするかなあ」

 君田は、そう言ったまま黙りこんでしまった。ここへきてもまだ、彼女とのことを、はっきりできないでいるのだ。

 浅丘知美のことは、それでなくても心配だった。二十六という年齢を考えれば、もうそろそろ結婚話があってもいいはずだ。

 それが君田ときたら、インドへ行くとか何とか、相変わらず勝手なことを言っている。

「で彼女は、おまえがインドへ行くことを、どう思ってるの?」

 僕は、棹さして問いつめた。 「当然、わかってくれてるよ」

 彼は、目を閉じて、こたえた。