回想25


「ところで、淳成くんはこれからどうするの?」

 知美くんは言った。僕はその言葉にハッとなり、われに返った。目の前を駆けていた馬たちも、いつの間にか姿を消し、あたりはシンとしている。

「君田がいなくなった今となっては、バンドも続けられない。〈キャンドル〉の夢も幻となった。それに、事務所にも迷惑かけてるわけだし……」

 正直なところ、僕はこの先どうするあてもなかった。知美くんの前だから、格好つけたいのはやまやまだが、そんな余裕もない。

「一人でもやれるのなら、淳成くんは信じた道を進むべきよ」

「そうかな」

「そうよ。あまり無責任に勧められないけど、そのほうが淳成くんらしいわ」

 知美くんの言葉に、ちょっとだけ勇気づけられた。今度は、僕がたずねる番だ。

「ねえ、知美くん。彼はあんな形でインドへ行っちゃったけど、君のほうは、それでよかったの?」

「そうね、しかたないわ。と言いたいけど、あたしだって、淋しいわ。あたしのことより、インドとか歌とか夢のほうが大切なの、って叫びたい。ちゃんとあたしを、つかまえていてほしかったのに」

 感情が高ぶり、しだいに涙声になった。僕は、座ったまま知美くんを抱き寄せた。ドキドキする。

 肩のうえに、彼女の存在を感じる。涙で濡れた髪に触れると、女の子独特の甘美な香りがした。

 あたりには、人影も馬影もない。この馬事公苑の観戦ベンチには、僕らの存在と、秋の夕風に舞う落葉だけだった。

 変な気をおこすには、絶好のロケーションである。 (彼女といまこんなふうにしていて、いいのだろうか)

 忘れていた昔の感情が、ふいに甦りそうで怖かった。僕は、それを打ち消すため、なぜだか彼女の唇を奪おうとした。

「いや! やめて。だめよ、だめ」

 知美くんは、両手でそれをさえぎった。本気でする抵抗ではなかったが、表情が乱れていた。

 何をやってるんだ、僕は……。

「ごめん」

 気まずい空気が流れ、しばらく沈黙が続いた。