回想26


 知美くんは、乱れた髪を指先で整え、ハンカチで涙をふいた。

「あたしのほうこそ、ゴメンなさい。昔みたいにまた、甘えちゃったわね。えへへへ」

 言って彼女は立ちあがり、ゆっくりと歩きだした。ふりむくと、秋の夕暮れの匂いがした。

 僕は、彼女を追わず、そのままじっと、後ろ姿を見ていた。玉砂利の道を進んで、正面ゲートまできたとき、知美くんはこちらをふり返り、

「今日は、ありがとう。じゃあ、またね」

 と言って手をふった。そして、小さくなった彼女の姿は、さらに霞んでやがて見えなくなった。

 僕は、そのとき自分を癒してくれるところはどこだろう、と考えた。君田はインド。知美くんはおそらく仕事とか家族。僕はというと、まるで答えが浮かばない。

 浮かばないけど、まずは名古屋、愛知の江南に戻ろうと思った。