僕と君田は、お互い顔を見合わせた。
『ルイーダ』といえば、かつて井上陽水やシャネルズなどが出演し、プロの登竜門と言われた名門のライブハウスだ。
そこに僕くら「キャンドル」が出演できるのだ。
驚きと興奮のため、胸が踊った。
けれど社長の三崎は、そんな二人に冷や水を浴びせるように難題を与えた。
「ただし、バックバンドをつけるのが条件だ。
あそこはビート中心の小屋だ。フォークの弾き語りではお客が納得しない」
「バックバンドですか?」
ゲジ眉の君田の眉間に、二本ほどシワが寄った。
「そうだ」
「お言葉ですが、キャンドルはフォークグループです。バンド演奏向きではありません」
「それができないなら、この先の仕事もないぞ」
君田は僕の顔色をうかがった。
「いいよ、やるしかないよ」
僕は君田をうながした。
小柄で端整な顔立ちの彼は、少し背伸びするようにして小さく肩で息をした。
「わかりました。バックをつけてやります」
「そうか、やるか。ま、ガンバッテくれ」
「で、バンドの手配はすぐにつくんですか?」
君田の問いかけに、三崎は鼻の先で笑った。
「それくらい、自分たちでやることだろが」
二人は、そんなバカなという感じで顔を見合わせた。
「まあ、そんな怖い顔せんで、精々練習に励むんだな。
君たちの望みどおり、歌う場所をちゃんと用意したんだから、少しは感謝してほしいな。
先方に下げたくもない頭を下げてとった仕事だ、くれぐれもわしの顔に泥を塗るような真似はせんでくれよ、いいか」
後頭部をぼりぼり掻きながら、三崎は含み笑いをした。
でも細い目の奥は笑っていない。
りんご飴のように赤らんだ頬を膨らませ、静かに僕らを威圧している。
「わかりました」
僕らはそれだけ言うと、事務所を出て稽古場となっている浜田山地域センターへ向かった。
この界わいは同時に、二人の居住地にも近かったのでどこかホッとできるのである。
「しかしバカにした話だよな」
改札を出てから、君田が悪態をついた。
「それはそうと、バックバンドどうする?」
僕は二週間後に迫ったライブのことを心配していた。
「そうだなあ…」
君田はそう言ったきり、おし黙ってしまった。
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