回想8


 季節は、学園祭たけなわであった。
ぼくらが所属する三崎企画にも、いろんな話がもちこまれているようだった。

 もちろん、三崎企画にはニューミュージック系やアイドル系などいないので、もっぱらお笑い、つまり色モノが中心となる。

 学園祭の物販で、被りモノをして売り子をするとか、各種アトラクションの司会、もしくは落研の学生相手に漫談・コントをやるとか、そういった類いである。

『ルイーダ』でのライブを、十日後に控えたある日、ぼくと君田は、社長の三崎に呼ばれた。

「明日、君たちに手伝ってもらいたい学祭イベントがあるんだ」

 と社長はおもむろに言った。

「歌の仕事ですか?」

 君田が心配そうに聞いた。

「そうだとも。盛り上がるぞ」

 社長は、軽い含み笑いをした。

「とにかく明日、1時に小田急線の向ケ丘遊園駅で待ち合わせよう」

 社長はそれだけ言うと、自分のデスクに戻った。

 三崎はいつもこのやり方である。
内容をろくに告げもせず、一方的に決めてしまう。
こちらの都合や選り好みど、考えようともしない。

「しゃーない。行くっきゃないな」

 君田は諦め顔でつぶやいた。

 翌日、時間どおりに待ち合わせ場所へ行くと、だぶついたスーツ姿の社長と、スラリと背の高い水商売ふうの女性が待っていた。
ぼくと君田は、持っていたギターケースを地面に下ろした。

「よし、行くぞ」

 三崎はそう言うと、間髪を入れず歩きだした。
相変わらずである。
例の水商売ふう女も、あとに続いた。
いったい、この人は何だろう。
ぼくらがそう思っていると、

「今日は、彼女は踊り子だ」

 と三崎は言った。

「石田ルナです。よろしく」

 彼女は振り返って、ペコンと軽く会釈した。
肩までのびる茶髪が揺れ、針葉樹のような付けまつげが動いた。

「は、はい」

 ぼくらは、戸惑いがちに返答した。
よく見ると、下はラメ入りのマキシスカートであった。
ふつうの商売ではない、と一目でわかる。
それでも、わが事務所の所属のタレントらしい。