回想9


 吊り下げ型のモノレールの下を横切って、一行は傾斜のきつい細い路地に入った。

 どうやらこの坂を登りきったところに、目的の大学があるらしい。浮かれたような学生が、何人もその通 りを往来している。

 中秋なのに、汗ばむような陽気だ。
ぼくらは、それぞれハンカチを手に正門をくぐった。

「いいか、君たちはしばらく控えの教室で待つんだ。番がきたら呼ぶから」

 社長は、肩で息をしていた。声もかすれている。
それでも彼は、少し息を整えてから、ルナと一緒に講堂のほうへ消えていった。

 ぼくらは控え室を探し、そこで音合わせをした。

「あの女、ダンサーって言ったけど、もしかしてストリップでもやるんじゃねーか」

 君田は、一曲歌い終えると、そう言って笑った。

「まさか、大学の講堂で裸になるわけないだろ」

 と、ぼくも笑った。

 しばらくして、廊下で忙しげな靴音がした。

「おい、出番だ」

 肉付きのよい三崎の顔が、出入り口から覗いた。

 彼についてゆくと、大講堂では、すでに大勢の学生たちが詰めかけていた。
それも男がほとんど。異様な熱気である。
今にもプロレスの試合か何かが始まるような興奮が、場内全体を覆っていた。

「これは、すげえや」

 さすがの君田も、この尋常でない雰囲気に、思わず嘆息した。

「君たちはルナの前座として、2曲ほど歌う。よろしく頼むな」

 三崎からそう言い渡され、ぼくらはギターを抱え、ステージへ上がった。

 ギターとボーカルのマイクをセッティングし、さあスタンバイ、という時に、場内から一斉にブーイングが起こった。

『帰れー、おまえらはいらねーぞ』

『そうだ、ひっこめ、ルナちゃんを出せー!』

『早くいとしい彼女を拝ませろ!』

 もう言いたい放題である。
君田のこめかみに青筋が立った。
キレるかと思ったが、彼は歌いだした。
ぼくら〈キャンドル〉にとって、屈辱的なステージである。